大阪地方裁判所 昭和50年(行ウ)26号 判決 1977年2月25日
大阪市旭区千林町二丁目一一番三一号
原告
菊水商事株式会社
右代表者代表取締役
水口種雄
右訴訟代理人弁護士
林田崇
大阪市北区南扇町一六番地
被告
北税務署長 泉茂
右指定代理人
河原和郎
外六名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
(一) 被告が昭和四九年六月二九日付でなした原告の自昭和四七年四月一日至昭和四八年三月三一日事業年度分の法人税についての更正処分及び加算税賦課決定処分はこれを取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二、当事者の主張
一、請求原因
(一) 被告は昭和四九年六月二九日、原告の自昭和四七年四月一日至昭和四八年三月三一日事業年度分の法人税につき、所得金額を四〇七萬〇、七六〇円とする更正処分(以下本件処分という)をなした。
(二) 原告はこれを不服として被告に対し異議申立をしたが棄却されたので、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、右請求を棄却する旨の裁決がなされた。
(三) しかし、本件処分は、収用等の場合の租税特別措置法(昭和四八年法律第一六号による改正前のもの、以下措置法という)による特別控除の適用がある補償金について、これを適用することなく原告の所得を算出したものであつて違法であるから、その取消を求める。
二、請求原因に対する答弁
請求原因(一)、(二)は認めるが、(三)は争う。
三、被告の主張
(一) 所得金額について
原告の自昭和四七年四月一日至昭和四八年三月三一日事業年度分の所得金額は別表被告主張欄記載のとおり四〇七萬〇、七六〇円である。
(二) 収用等の場合の所得の特別控除について
1、原告は大阪市北区曾根崎上四丁目一一の一所在の建物の一部において毛布等の卸売業を営んでいた法人であるところ、右所在地が大阪市の旋行する大阪駅前市街地改造事業の旋行区域となり、大阪市に買収されることとなつたので、原告は大阪市との間で昭和四七年一二月二七日占有者立退契約を締結した。
2、原告は右契約に基づき、大阪市から工作物売渡代金三萬円及び補償金六〇一萬一、二〇〇円(その内訳は別表記載のとおり)、合計六〇四萬一、二〇〇円(以下補償金等という)を取得した。
3、ところで、措置法六五条の二第一項の規定の適用を受けることができるのは、法人の有する資産で同法六四条一項各号または同法六五条一項一号ないし三号の規定に該当するものに限られるところ、同法六四条三項によれば、同条一項一号、五ないし八号に規定する補償金の額は資産の収用等の対価たるものに限られ、収用等に際して交付を受ける移転料その他当該資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まないものとされる。したがつて、原告が取得した補償金等のうち、同法六四条一項でいう補償金、対価または清算金に該当するものは、次の(1)、(2)の合計一三四萬五、九〇〇円である。
(1) 工作物売渡代金 三萬円
(措置法六四条一項二号にいう対価)
(2) 借家人補償金 一三一萬五、九〇〇円
(同法六四条二項二号にいう資産の損失に対する補償金で、同項により収用等による譲渡があつたものとみなされる同条一項六号にいう対価)
なお、原告は、大阪市旋行の公共施設の整備に関連する市街地の改造に関する法律(都市再開発法の制定に伴い昭和四四年六月に廃止。同法附則三条、四条、一二条により適用)に基づく大阪駅前市街地改造事業に伴う公共事業用地の取得により、転借していた建物が買取されたことにより、前記の補償金のほか動産移転補償金、その他の移転補償金、収益補償金、経費補償金等の補償金を受領したものであるが、そのうち動産移転補償金及びその他の移転補償金は資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして、収益補償金は事業について減少することとなる収益または発生することとなる損失の補てんに充てるものとして、経費補償金は休廃業等により生ずる事業上の費用の補てんまたは収用等による譲渡の目的となつた資産以外の資産について実現した損失の補てんに充てるものとしてそれぞれ交付されたものであり、いずれも措置法六四条一項各号及び六五条一項一号ないし三号の規定に該当しない。
4、したがつて、原告の場合収用換地等の特別控除の額は、別表被告主張欄記載のとおり一三二萬五、一六三円となる。
四、被告の主張に対する原告の答弁
(一) 被告主張(一)は争う。
(二) 同(二)、1は認める。2のうち、原告が合計六〇四萬一、二〇〇円を受領したことは認めるが、その内訳については争う。被告主張の内訳金額は、大阪市が右総金額を支出するために勝手に附した数字にすぎない。3、4は争う。収用換地等の特別控除の額は別表原告主張欄記載のとおり六〇二萬〇、四六三円である。
理由
一、請求原因(一)(本件更正処分の存在)、(二)(裁決の存在)については当事者間に争いがない。
二、そこで、以下収用等の場合の所得の特別控除について判断するに、原告が被告主張の場所において毛布等の卸売業を営んでいた法人であるところ、右所在地が大阪市の施行する大阪駅前市街地改造事業の施行区域となり、大阪市に買収されることとなつたので、原告が大阪市との間で昭和四七年一二月二七日占有者立退契約を締結したこと及び原告が右契約に基づき大阪市から総額六〇四万一、二〇〇円を受領したことは当事者間に争いがない。そして、いずれも成立に争いのない乙第二ないし四号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告代表者は昭和四七年二月頃から大阪市との間で立退契約の内容となる補償金の額につき交渉を重ねたが、交渉の途中からは中山福蔵弁護士に対し右交渉に関する一切の事項を委任し、最終的には同年一二月二七日原告の代理人である同弁護士と大阪市との間で、補償金等の総額を六〇四万一、二〇〇円とし、その内訳金額を被告主張のとおりとする旨の合意が成立したことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、措置法六五条の二第一項、六四条三項の各規定によれば、原告が取得した補償金等のうち、措置法六五条の二第一項による特別控除の適用が受けられるのは、右内訳金額中、資産の収用等の対価と認められる工作物売渡代金三万円及び借家人補償金一三一万五、九〇〇円、合計一三四万五、九〇〇円に限られるのであつて、その余の動産移転補償金、収益補償金、経費補償金、その他の移転補償金については右特別控除の適用がないことが明らかである。そこで右適用を受ける金額に、被告主張のとおりの計算をする(譲渡資産の帳簿価額が二万〇、七三七円 であることは当事者間に争いがない)と、収用換地等の特別控除額は一三二万五、一六三円となる。
三、そして、当期利益が六〇三万〇、九八九円、損金の額に算入した都府県民税、市町村民税が五、四〇〇円であることは当事者間に争いがなく、法人税額から控除される所得税額が三九六円、欠損金の当期控除額が六四万〇、八六二円であることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。そうすると、原告の係争事業年度分の所得金額は被告主張のとおり四〇七万〇、七六〇円となり、これと同額に出た本件更正処分に違法はない。
四、よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長 裁判官 奥村正策 裁判官 辻中栄世 裁判官 山崎恒)
(別表)
<省略>